監督のコメント




かかし座の魅力

私がこの劇団の方たちと近しく接するようになったのはほんの1年前からですが、その名前だけはずいぶん昔から脳内に刷り込まれていて、勝手に「旧知の関係」と思い込んでいるところがあります。というのは、かかし座は鎌倉アカデミア演劇科の第一期生だった後藤泰隆(現在の代表・後藤圭さんのお父様)が設立した劇団で、私の父・青江舜二郎はその鎌倉アカデミアで教鞭を執っており、いわば親子二代にわたる関係にあったからです。

昨年(2012年)の5月に鎌倉・材木座の光明寺で行われた「鎌倉アカデミアを伝える会」に出席した時、やはり演劇科出身の劇作家・若林一郎さんが、かかし座60周年記念公演のチラシを出席者に配り、その宣伝をされていました。若林さんは劇団創立時から現在に至るまで、かかし座に数多くの台本を提供されている、まさに影の功労者です。その方が「最近この劇団では手影絵でいろいろな動物を作って演じる『ANIMARE』というのが評判になっていまして…」とおっしゃいます。

チラシには、ゴリラや子猫、渡り鳥などと、それらの演じ手の姿が折り重なるようにレイアウトされていて、それを目にした時から何だかそわそわと落ち着かなくなって来ました。それであとさきも考えず、数日後、若林さんとともに劇団を訪ね、代表の後藤さんに、
「作品として発表するかどうかはわかりませんが、バックステージを撮影させていただけないでしょうか」
と直談判しました。その時私はまだ「ANIMARE」そのものを見たこともなかったのに、いきなり「舞台裏を撮らせて欲しい」とお願いしたのです。ずいぶん本末転倒な話だと思いますが、何か自分には、この作品はとても魅力的で、そしてその裏側も、表に負けず劣らず魅力的に違いない、という予感めいたものがあったのです。

そんな、雲をつかむような話ではありましたが、幸いにも後藤さんから快諾をいただき、こうして7月上旬から11月上旬まで、のべ4カ月にわたる密着撮影がスタートしたわけです。

撮影が進むにつれ、私の興味の矛先は、次のように移り変わって行きました。

まずは「ANIMARE」という演目そのものと、それが、どのように作られているのか―。これは、いわゆる手品の仕掛けを知りたくなる心理そのものです。私は昔からそういう欲求が強い方でしたので、最初のうちは、ひたすら「ネタ」を探る視線でカメラを回していました。
「そうか、この動物はひとりが頭と胴体、もうひとりが前足を作ってシンクロして動かしているのか」などと、しきりに感心していたものです。と同時にメンバーの人たちの身体能力の高さにも驚きました。あの不自然な姿勢で、1時間以上のパフォーマンスを途切れなくこなすとは…。

それが撮影も中盤になると、そうした事象にも一定の理解が進み、視線は次に、影の動物を作る、パフォーマー自身へと向かいます。決定的だったのは、コンテンポラリーダンス的な演目「Syrinx」をメンバー諸氏が考案していた時です。彼らはスクリーンに投影される影の形だけに注意を払って、自分たちが今この瞬間、どういう姿勢でいるのかなどまったく眼中にないのですが、そんな彼らの指先や腕、ひいては全身のフォルムが、何とも言えず美しいのです。これは新鮮な発見でした。観客には絶対わからない繊細な手指や体の動き、これこそ映像で映さなければ、誰にも見られることのないまま消えてしまうものです。今回のドキュメンタリーを作る意味を発見した瞬間でもありました。




そして東京公演以降、私の関心は完全に、パフォーマーたちの内面というか、人間性に向けられます。作品の後半、演目よりも彼らの個々の表情を多く切り取るようになっていったのも、その表れだと思います。映画をご覧いただければおわかりだと思いますが、かかし座の方たちはみな謙虚で素直で(言葉にすると薄っぺらくなってしまいますが)、そして何より仕事を愛し、それを楽しんでいます。

商売道具の大切な手を惜しげもなく使って舞台のセッティングや撤収をやり、自分たちで車を運転し…、という旅芸人のような生活は、いささかハードすきるようにも思いますが、しかし悲愴感は微塵もなく、彼らは練習中も本番中も笑顔を絶やしません。「日本で最初の影絵劇団」という看板を背負ったプロの集団なのに、まるでサークル活動のような爽やかさがあります。

作品中、故・後藤泰隆夫人の五十子さん(現専務)はインタビューに答えて、
「こんなにお金にならないことを、何で(60年も)やってるんだろうなって…」
と語ってらっしゃいますが、言葉とは裏腹にその声は明るく、表情は輝いています。このひとことに、かかし座という劇団の魅力が集約されていると私は思います。




この映画は、本文の初めにも書いたように、ほんの思いつきから始まった作品で、クランクイン前から、全体の構成を考えていたわけではまったくありません。撮影スタッフも私一人で、しかもこれが初めてのドキュメンタリー作品です。
ドキュメンタリーも本来は劇映画同様、事前に綿密な構成を考えて撮影に臨むべきなのかも知れませんが、今作では、撮影とともに私の興味が移り変わっていった様を、作品を通して皆様に追体験していただくのが一番いいように感じています。そして、かかし座の飾らない魅力を、ひとりでも多くの人に体感していただければ、これ以上のしあわせはありません。

大嶋 拓 (『影たちの祭り』監督)